2016年8月2日
【陸上競技PREVIEW】義足の走り幅跳び、車いすのトラックなど見どころ満載!
パラスポーツの醍醐味を味わえる! 陸上競技の11日間
陸上競技は第一回パラリンピック大会(1960年/ローマ)から行われており、大観衆を集める花形競技だ。できるだけ公平に競技ができるよう、障がいの程度別にクラス分けされ、男女別に多彩な種目が行われる。2016リオ大会では、トラック種目とフィールド種目に、マラソンを含めた男子96、女子81の計177のメダル種目が実施予定だ。
日本代表選手は22競技中最多人数の、男子20人、女子16人の計36選手が発表されている。前回ロンドン大会は36選手で銀メダル3個、銅メダル1個を獲得したが、2020年東京大会の開催決定以降、強化も急速に進められる中、ロンドン大会を上回る成績が期待されている。
走り幅跳び世界選手権2連覇・山本篤のライバルは?
有望種目筆頭は、男子走り幅跳びのT42クラス(大腿切断など)だ。世界選手権で2連覇し、日本記録(6m62)をもつ山本篤が悲願の金メダル獲得を目指す。今年に入り、山本を含む、世界ランキング上位3選手が世界記録を代わる代わる塗り替える混戦状態にあり、楽な戦いとは言えないが、7月末時点で、世界記録(6m72)を持つハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)、6m70で続くダニエル・ワグナー(デンマーク)らと、最高峰の舞台で過去に例のないハイレベルな戦いを繰り広げることだろう。
走り幅跳びはT44クラス(片下腿切断など)も面白い。女子は日本記録(5m51)をもつ中西麻耶が今期世界最高5m78の記録を持つ、シュティフ・リード(ドイツ)らに挑む。男子は日本選手の出場はないが、オリンピック出場も期待された、ドイツのマルクス・レームに注目だ。世界記録(8m40)の更新や直前に行われるオリンピックの記録との比較など興味は尽きない。
男子走り高跳びT44クラスでは、今年5月、リオのプレ大会で日本記録(2m02)を樹立した鈴木徹に期待したい。同じ会場で再び自己記録を更新すれば、5度目のパラリンピックで初のメダル獲得も見えてくる。
スイスのマルセル、日本の佐藤友祈らに注目
車いすのトラックレースも、障がいの重い順にT51から4クラスあり、100mから5000mまで実施種目も多く、迫力、スピード感ともに見ごたえたっぷりだ。特に障がいが最も軽いT54クラスは競技者数も多く、どの距離でも熾烈な戦いが予想される。なかでも注目したいのが、トレードマークの銀色のヘルメットにちなみ、“シルバー・ビュレット(銀の弾丸)”の異名をとる、スイスのスター、マルセル・フグ(上の写真)だ。
18歳で初出場したアテネ大会で2つの銅メダルを手にし、一躍注目されたフグ。2010年に樹立した、4つの世界新記録(800m/1500m/5000m/10000m)はいまだに破られていない。2008年北京、2012年ロンドンでは低迷したが、2013年世界選手権(フランス)でマラソンを含む5種目を制覇し、復活を果たす。伝統の大分国際マラソンでも6連覇中など、日本にもファンは多い。昨年の世界選手権(カタール)は体調不良もあり、銀と銅の各1個獲得にとどまったが、それだけにリオに懸ける思いは強いはずだ。
とはいえ、フグの長年のライバルで、パラリンピックに強いデビッド・ヴェアー(イギリス)をはじめ、近年台頭してきたタイ勢など、T54クラスのタイトルの行方は予想困難な状況だ。世界の強豪たちを相手に、中長距離のエース樋口政幸や、7度目のパラリンピックとなるベテランスプリンター永尾嘉章らの日本勢がどんな戦いを挑むかにも注目だ。
また、初出場ながら表彰台を狙う、T52クラスの佐藤友祈も楽しみだ。昨年の世界選手権で400mを制した度胸の良さと伸びのあるラストスパートに期待したい。
女子T54クラスには日本選手の出場予定はないが、アメリカのタチアナ・マクファデンから目が離せない。2013年世界選手権で100mから5000mまでのトラック6種目優勝を果たした彼女の、リオでの目標は、マラソンを加えた「全7種目制覇」だ。達成すれば、もちろん男女を通じて前人未到の大記録になる。
注目のマラソンは大会最終日に行われ、日本チームにとってもメダル量産の可能性が高い。マクファデンが有終の美を目指す女子T54クラスは、冬季を合わせパラリンピック7大会連続出場の土田和歌子が悲願の金メダルを狙う。土田と並んで世界記録(1時間38分07秒)をもつマニュエラ・シャー(スイス)とマクファデンとの三つ巴の戦いが予想されるが、比較的フラットといわれる周回コースで高速レースが見込まれる中、仕掛けどころがカギになる。ベテラン土田の勝負強さに期待したい。
男子T54クラスは群雄割拠で予想が難しい。ロンドン銀メダリストのフグや勝負強いオーストラリアのクート・ファーンリーといった世界ランク上位陣に加え、日本記録(1時間20分52秒)をもつ洞ノ上浩太をはじめ、国際大会の優勝経験も多いベテラン、山本浩之や副島正純など日本勢が層の厚さで表彰台を狙う。
女子マラソン(視覚障がい)の道下美里に注目!
T12(視覚障がい)の男子は2015年世界選手権銅メダリストの堀越信司と、日本記録(2時間24分42秒)保持者でロンドンパラリンピック4位の岡村正広にメダルの期待がかかる。女子はリオ大会から初採用。初代女王の座をめぐり、日本記録(2時間59分21秒)保持者で2015世界選手権銅メダリストの道下美里が、世界記録(2時間58分23秒)保持者のエレナ・ポートバ(ロシア)、2015年世界選手権優勝のジン・ジョン(中国)らと鎬を削る。
前回ロンドン大会と2015年世界選手権で4位入賞の男子T42-47クラスの4x100mリレーにも初のメダルの期待がかかる。4位入賞を果たした前回ロンドン大会は、T46クラス(上肢切断など)100m日本記録保持者の多川知希と、T44クラスの義足の3選手というオーダーだったが、今回は走り幅跳びが専門のT46クラスの芦田創がメンバーに加わり、上肢切断2名と下肢切断2名という、より速いオーダーも組める状況なっている。新オーダーでのレース経験はまだ少なく、「バトン」は使わず、選手同士の「タッチ」で行うパラ陸上のリレーに少々不安もあるため、直前の合宿などでコンビネーションを強化し、確実なタッチリレーで強豪を脅かしたい。
知的障がいクラス(T/F20)は前回ロンドン大会から復活し、リオでは男女別に400m、1500m、走り幅跳び、砲丸投げの4種目が実施される。日本人選手で出場権を獲得したのは3名。男子走り幅跳びには3月のアジア・オセアニア選手権で日本記録(6m72)をマークして銅メダルを獲得した山口光男。女子1500mには日本記録(4分48秒99)をもち、12年ロンドン大会で5位入賞の蒔田沙弥香、アジア・オセアニア選手権銀メダリストの山本萌恵子。それぞれ上位入賞を狙う。
開会式翌日から閉会式当日までの11日間、毎日競技が行われる陸上競技は見どころも満載だ。日本選手の活躍とともに、世界の超人たちによる高レベルなパフォーマンスも見逃さず、パラリンピックの魅力を堪能してほしい。
text by Kyoko Hoshino , photo by Takao Ochi , X-1