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リオパラ直前! ライター座談会その3〜リオパラリンピックのここだけは見逃すな!

3人のライターが独断と偏見で推すリオパラリンピックの注目競技

リオパラリンピックでそれぞれが個人的に注目している競技や選手、見どころを紹介します。

テレビの画面から消えてしまう守備範囲の広さ! 車いすテニス

荒木 私が注目しているのは、日本人選手のメダル獲得も期待出来る車いすテニスです。2バウンドで返球OKという以外は、一般のテニスとルールは一緒です。テニスは観たことがある人や遊びでもプレーしたことがある人も多いと思いますし、勝負も明確なので、パラスポーツ入門編としておすすめです。なんといっても、日本人の活躍が期待できる競技で、テレビ中継もされるので、ぜひ見ていただきたいですね。

テニス経験者の方には、ハの字型の車輪がついた専用車いすでのチェアワークにもご注目いただきたいです。車いすの操作もしながらプレーするって、なかなか大変なんです。止まると動き出しに時間がかかりますし、左右には動けないため、絶えずくるくると回転しながら待機し、相手のボールを読んでその方向へ動きます。一般のテニスの倍近い距離を移動するので体力も必要です。テレビ観戦していると、画面から消えてしまうこともあるほど、守備範囲も広いんですよ。

男女別のシングルスとダブルスのほか、三肢以上の障がいを持つ選手のためのクァードクラスがありますので、それぞれの注目選手と見どころを紹介しましょう。

【男子】国枝慎吾の世界一のスピードと技術は必見!

注目は、なんといっても、絶対王者・国枝慎吾選手です。08年北京、12年ロンドンパラのシングルスで金メダルを獲得し、リオでは3連覇がかかっています。最大のライバルは、ステファン・ウデ(フランス/45歳)です。お互いライバルと認め合う中で、この2人が競い合うことで、車いすテニス界のレベルもぐんと上がりました。ニュースでも報道された国枝の連勝記録を107で止めたのも、このウデでした。

この二人に追いつけ追い越せとばかりに這い上がってきた若手選手たちが、いままさに伸び盛りで、今年のグランドスラムはそれぞれ異なる20代の選手が優勝しています。3位から7位までの選手たちの力の差もごくわずかです。国枝選手は、まだ世代交代はさせないと言っていますから、勢いのある若手選手たちをベテラン2人がどう迎え撃つかも見どころになるでしょう。

なお、国枝は、4月にひじの手術をしていることもあり、試合をしながら調整することになりそうです。3回戦ぐらいまでに調子が上がってくれば、おもしろいと思います。国枝は、チェアワークとスピード、そして相手のボールを先読みして動く力が世界一といわれているので、そのあたりにも注目してみてください。

【女子】日本選手団の旗手も務める上地結衣は世界2位の実力者!

世界ランキング2位、日本ランキング1位の実力者、上地結衣選手の活躍に期待が集まっています。実は、女子のランキング上位8人は、ランキングが当てにならないほど、実力の差がないんです。いつも戦っているメンバーがベスト8には上がってくるはずなので、そこからいかに自分らしいテニスができるかにかかっていると思います。

ベスト8の中の3人は、体が大きく、腕も長く、パワーもあるオランダ人です。そうした選手たちの中で、体が小さい上地が互角以上に戦っていること自体がすばらしいのですが、その要因のひとつとして、メンタルが安定していることを挙げたいですね。また、データテニスを得意としていて、相手に応じて決め球を使い分けられる賢さも彼女の魅力だと思います。現在、バックハンドのトップスピンという女子選手ではあまり使わないボールを練習中なので、それが使えるようになれば、金メダルも十分手が届くはずです。

【クァード】注目度赤丸急上昇中の日本人ペア!

残念なことに、まだまだ男子と女子の陰に隠れている観があるクラスですが、ダイナミックに動けない分、頭を使って戦術で勝負するところが醍醐味だと思っています。

日本は結構強くて、シングルスランキングのベスト8に川野将太と諸石光照の2人が入っているんですよ。しかも、その2人がダブルスを組んでいて、いま、すごく調子がいいんです。5月に行われた車いすテニス国別対抗戦では、テイラー組を破って銅メダルを獲得したのが、記憶に新しいところですね。このペアはロンドンでもダブルスで4位でしたので、リオでもメダルを狙えると思います。

見どころが多すぎで悩む! 陸上競技

星野 私のおすすめは陸上競技ですね。陸上競技はあらゆる障がい(身体、視覚、知的)の種目があり、さらに障がいの程度によってクラスが細かく分かれています。ロンドンパラでは100メートル決勝だけでも、15回もあったほどなんですよ。
義足や車いすなどの用具を使う選手は、それを自分の体の一部として使いこなしているし、視覚障がいの人はガイドとのコンビネーションに注目したいですね。とにかく見どころが多すぎるのが悩みどころですが、それはすなわち、「わあ、すごい!」という驚きや感動にたくさん出合えるっていうことでもあるんです。

オリンピックでは、日本人はどうしても海外選手に一歩及ばない印象がありますが、パラリンピックでは走り高跳びや幅跳びといった義足の跳躍の種目を中心に、男女とも世界ランキングが上位で、世界と互角に戦える要注目の選手がいるんです。

【走り幅跳び】理論派で兄貴分のジャンパー山本篤!

なかでも、もっとも金メダルに近いと言われているのが、義足の走り幅跳びの山本篤です。世界記録1回樹立、世界選手権2連覇を達成した、真の世界チャンピオンといっていいと思います。ところが唯一パラリンピックだけ優勝していないので、今回は本人も相当気合が入っていますよ。現時点での記録は世界3位なのですが、状況次第でだれが金メダルをとってもおかしくないほどトップ3の実力が伯仲していますから、熱い戦いが期待できます。

山本選手は、義肢装具士の資格を持つとともに、大学院で運動力学を学んだ理論派ジャンパーとしても知られていて、自分の体を実験台にしながら、義足でのパフォーマンスをいかに高めるか追究しているんです。しかも、研究成果を惜しみなく後輩たちに披露して、的確なアドバイスを送っていて、同じ障がいの大西瞳選手は、山本選手の「義足の角度を変えてみたら」というアドバイスのおかげで記録がぐんと伸びたそうです。彼の姿を見てかっこいいと思ってやりたいという若い選手も出てきていて、そういう意味での貢献度も計りしれませんね。

同じく走り幅跳びの中西麻耶選手は、現在、世界記録2位で、やはり金メダルは射程圏内で素。北京ではトラック競技にも出場して、100m6位、200m4位という結果を残しているんですよ。

【走り高跳び】5度目のパラリンピックはメダル圏内! ベテラン鈴木徹!

義足の走り高跳びの鈴木徹選手は、過去4回連続、パラリンピックで入賞しています。6位、6位、5位、4位と着実に順位を上げてきているので、5回目となるリオではメダルに期待したいですね。とはいえ、このクラスの世界記録2m18に対し、鈴木選手の自己最高記録は2m02なので、正直、金は厳しいかもしれませんが、銀か銅は十分、狙えると思います。

【マラソン】世界女王・道下美里の走り!

リオからパラリンピックの正式種目となった視覚障がいの女子マラソンの道下美里選手は、2014年に世界記録を樹立しており、やはり大注目の選手です。マラソンは車いす競技もあり、こちらもスピード感いっぱいでおもしろいですよ。

あの悔し涙から4年……メダルの期待がかかるウィルチェアーラグビー!

瀬長 団体競技の中でもっとも日本がメダルに近いと期待されているのが、ウィルチェアーラグビーです。実は、ロンドンでもメダルを目指していたのですが、結局3位決定戦で負けてしまい、4位に終わったんです。そのとき、選手たちが悔し泣きをしているのを見て、改めてこの人たちの本気を感じましたね。
実際、ロンドン後、多くの代表選手が転職するなどして競技環境を変えました。競技に集中できる選手が多くなった分、チーム競技に不可欠な連携プレーの練習回数も格段に増え、精度も上がっています。

そのかいあって、昨年12月のアジアオセアニア選手権では、なんとロンドンパラリンピック金メダルのオーストラリアを破り、初優勝したんです。快挙ではあったのですが、いざ頂点に立ったことで、今度はリオまでどのようにモチベーションを維持したらいいか戸惑う選手もいたようでした。

そんな中、今度は今年5月の親善試合で4か国中4位に沈んでしまいました。若手中心でやってきた国もあった中で、日本はベストメンバーで臨んだにもかかわらずです。当然、選手もスタッフもくやしがっていましたが、私としては、ロンドンで負けたくやしさをばねに強くなってきたチームだからこそ、ここで初心に返流ことができてよかったと思っています。きっと、「5月にあの負けがあったからリオでメダルがとれたんだね」って笑って言える日が来るはずですから。

東京パラリンピックの注目選手を今からチェック! 初お目見えのカヌー!

瀬長 リオからパラリンピック正式競技になったカヌーで、私が大注目しているのが瀬立モニカです。まず私の名前と似ているし(笑)、お互い、生まれも育ちも東京の江東区で、勝手に不思議な縁を感じちゃっています(笑)。

しかも、なんと東京パラリンピックは地元・江東区がカヌー会場なんです! すでに江東区は盛り上がっていて、区のカヌー協会はもとより、地元の企業もスポンサードしたり、カヌー艇用のシートを開発したりするなどして、モニカ選手を応援しているんですよ。地元の人たちが練習場に集まっている様子を見て、すごくいいなと思いましたし、私も地元が改めて好きになりました!

モニカ選手は、明るい笑顔も魅力的で、会えばだれでも応援したくなる魅力の持ち主。ラッキーガールな一面もあって、実はリオ選考会では出場枠内に入らなかったのですが、失格者が出てパラリンピックに出場できることになったんです。自宅に帰ったその晩にコーチから連絡があってきてその知らせを聞いたときは、思わず泣いてしまったほどうれしかったと教えてくれました。せっかくのチャンスを活かして、まずはリオの大舞台で経験を積んでほしいですね。それがきっと東京での活躍につながるはずと期待しています!

―ぜひマニアックな見どころポイントも教えてください!

星野 私はトライアスロンのトランジションエリアを見るのが好きです。スイムからバイク、バイクからランと種目を変えるエリアのことですが、選手の障がいもさまざまで、義足といった補助具も、使う機材もバリエーション豊かで興味深いです。それに、着脱にかかる時間もさまざまで、「第4の種目」と言われるくらい、逆転もあり得る重要なポイント。見ているほうも、ハラハラしちゃうんです。

荒木 重度障がい者のために考案されたボッチャは、手を思うように動かせない、言葉もうまく伝えられないという人たちも選手として参加していて、手が使える選手は自分でボールを投げますが、それができない場合は木製のスロープにボールを置き、目標球に向かって自分のボールを転がします。もちろん、自分ではスロープもボールも動かせないので、健常者の競技アシスタントに指示を出して、スロープの位置や傾斜角度を調整してもらうのですが、この指示の出し方が、観ているだけではまったくわからないんです。黒目を動かすのか、まばたきの数なのか、息の吐き方なのか、いずれにせよ、競技アシスタントのコンビネーションが問われる頭脳戦です。

瀬長 私は知的障がい選手のルーティーンかな。取材をするなかで水泳の津川拓也選手のお母さんに聞いたのですが、実は深い意味があるんです。パラリンピックのような大きな大会では、競技前の招集が何度もあって、他の障がいの選手はストレッチをしたりしているのに、自由な時間を使うのが苦手な知的障がいの選手はじっと待ってしまい、その結果、体がカチコチになってしまうんだそうです。だから、スタートまでの待ち時間は、準備体操で体をほぐすルーティーンがすごく大事。津川選手の場合は、手を大きく振って入場したり、お母さんが考案した全身運動をするのがルーティーンで、自宅で何度も何度も練習して本番を迎えるそうです。

荒木 1チーム3人で戦う、視覚障がい者のためのゴールボールも面白いですよ。ロンドンでは、日本の女子チームが団体戦として初の金メダルを獲得したので、リオでも期待したいですね。
男子の場合、ボールのスピードは時速50キロにもなるそうで、しかも最近では、より威力を増すために回転投げが主流になっています。女子の場合はなかなか点が入らず、膠着状態に陥ることも少なくないのですが、拮抗した試合が大きく動くチャンスが、タイムアウトや選手交代のときです。

星野 静寂の中、なかなか得点が入らない緊迫の時間が続きますが、私はタイムアウトがかかると、「きた!」って思って、次の1プレー、2プレーに特に注目します。外から見ていたコーチから作戦が授けられ、選手の動きも変わったりして、試合が動くことが多いんです。なんだか話しているうちに、ワクワクしてきました!早く現地で取材したいです! 

瀬長 帰ってきたら、ぜひリオパラ総決算座談会もやりましょうよ。

荒木 みんな無事に帰って来られたらね(笑)。

荒木美晴
MA SPORTS代表、ライター。滋賀県大津市在住。1998年長野パラリンピックでパラスポーツと出合い、その魅力に開眼。この感動や興奮を多くの人に伝えたいと、大阪の衣料問屋のOLからライターに転身。以後、世界選手権やパラリンピックをはじめ、国内外の大会を精力的に取材。記事は、障がい者スポーツ専門サイトなどで発信している。初パラリンピック取材は、00年シドニー大会。

瀬長あすか
フリーランスエディター&ライター。東京都江東区出身。日本財団パラリンピックサポートセンターWEBエディター。学生時代より記者活動をスタートし、ブラインドサッカーとの出合いをきっかけに、パラスポーツを追いかけ始める。2011年よりフリーに。現場主義をモットーとし、取材したパラスポーツは50以上。初パラリンピック取材は、04年アテネ大会。

星野恭子
フリーランスライター。新潟県出身、東京都在住。偶然の出会いから始めた盲人マラソンの伴走ボランティアで、障がい者の能力の素晴らしさを知るとともに、パラスポーツの魅力に目覚め、メインテーマのひとつとして追いかけ始める。アスリートだけでなく、周囲で支えている人たちにを当てた記事も好評。著書に『いっしょに走ろっ!』(大日本図書)など。初パラリンピック取材は、08年北京大会。

text by Masae Iwata , photo by X-1

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