パラサポ

「負けながら勝つ」及川ヘッドが率いた車椅子バスケ男子日本代表

東京で「勝つ」ための大きな一歩

「今日の勝利はただの勝ちでなく、『負けながら勝つこと』ができた試合だった」

車椅子バスケットボール男子日本代表はリオパラリンピックで、初戦から3試合連続で星を落とし、早々に予選敗退で決勝トーナメント(8チーム)進出を逃がすという事態に陥った。目指していた「過去最高位の6位」は、その挑戦権すら手にできなかった。

冒頭は、ある意味で消化試合となった、予選4戦目のカナダ戦を、76-45で快勝した際、ヘッドコーチの及川晋平が安堵の表情で口にした一言だ。

「負けながら勝つ」とは、及川が今大会に向けて設定した、チームのテーマだ。日本は実績や世界ランキングから見ても、今大会ではチャレンジャーの立場。だから、「たとえ敗戦しても、そこから学び、成長していきながら、最終的に勝てばいい」。そんな信念と決意が込められていた。

リオパラリンピックは、9位に終わったロンドン大会のリベンジを期した大会だった。及川にとっては、アシスタントコーチから昇格し、ヘッドコーチとして臨む初の大舞台だ。選手も持ち点や持ち味、選手同士のフィット性などを考慮した上で、ベテランから新人までさまざまな選手を幾度もの合宿で吟味し厳選した12人。初出場者が7人も含まれた、リオパラリンピックからの新生全日本になる。

今大会は及川にとってもチームにとっても第一歩。どう戦うかが今後につながる重要な大会だった。

予選Aリーグに入った日本の対戦相手は、順にトルコ、スペイン、オランダ、カナダ、オーストラリア。どこも簡単には勝たせてくれそうにない、強豪ばかりだ。迎えた初戦、「及川ジャパン」は欧州2位のトルコに善戦したものの、49-65と敗れ、翌日のスペイン戦も39-55で連敗を喫した。

及川としてもチームとしても、次のオランダ戦が予選突破をかけた大一番だと認識していた。両者とも譲らず、接戦を演じたものの、最後に離され、59-67で惜しくも敗北。星勘定により、この結果をもって、予選敗退が決定。ロンドン越えはならなかった。

車椅子バスケットボール最終戦

予選敗退について、香西宏昭は、「結果として受け止めるしかない。でも、下を向いて悔しがるだけでなく、悔しさをバネに成長しなければならない。歯を食いしばりながら、前進あるのみ。これを学びの場にしたい」と前を向いた。

「全員バスケ」で今大会2勝

悔しい敗戦から一夜明け、選手たちは落ち込んだ様子は微塵もみせずに躍動し、76-45でカナダに快勝した。敗戦から得た課題や学びを活かし、成長しながら勝ちあがっていくという、及川のいう、「負けながら勝つ」形を一つ、今大会で実現できたことになる。

及川は、「ものすごくホッとしています。この4年間、(カナダ戦のような)こういう絵を描いてつくってきたチームだったので、そのイメージを本番のコートで選手たちがつくりあげたことは本当に自信になる。東京に向っていくために残すものができた。予選敗退はものすごく悔しい。でも、結果よりも自分たちが成長することが大事。今日(のカナダ戦で)やったことがステップであり、経験」と手ごたえを口にした。

もう一つ、及川はカナダ戦で評価したのは、12人が機能する「全員バスケ」ができたことだ。先の3試合では選手起用について及川は「もっと大胆にやればよかった」「僕が未熟なので、出すタイミングを探しながらだった」などと明かしていたが、この日は納得のいく起用ができたということだろう。

「全員バスケ」とは、12人全員を効果的に機能させる、日本がテーマとする戦い方だ。車椅子バスケットボールには、障がいの程度に応じて選手ごとに「持ち点」が与えられており、コート上の5人の合計点が14点以内にしなければならないという特有のルールがある。その5人の組み合わせを「ユニット」といい、日本もいくつかのユニットを場面に応じて使い分けている。

例えば、持ち点が1.5、2.0、2.5、3.5、4.5の5人からなる「ユニット1」で、エース藤本怜央や香西を擁し、攻守にわたって安定感のある主力ユニットで、スタートや重要な局面に投入される。「ユニット5」は、2.0が3人、4.0が2人のユニットで、攻守ともにスピードが武器だ。ユニット5を起用することで、ユニット1の選手を温存し、ここぞというときの重要な局面での投入が可能になる。日本には他にもいくつかのユニットがあり、適度に使い分けることで、主力頼りでない、12人で戦う「全員バスケ」を信条とする。

香西もカナダ戦後、「一番よかったのは12人で戦えたこと。ここまでの負けを僕たちはちゃんと学びに変えられていると思った。これまでの試合は本当に苦しくて辛くて、勝ちたくて仕方がなかった。僕たちがやってきたことは間違いなかったと信じていた。それができて、嬉しい」

予選最終試合のオーストラリア戦は55-68に終わり、日本は予選1勝4敗で9-10位決定戦に回った。アジアのライバル、イランと対戦し、65-52で有終の美を飾る。最終順位はロンドン大会と同じ9位だが、及川が理想とする、「負けながら勝つ」を具現化したカナダ戦の一勝が、4年後の東京で「勝つ」ための大きな一歩になったと信じたい。ここから学び、どう生かすか。及川ジャパンのこれからの戦いぶりに注目していきたい。

text by Kyoko Hoshino/NO BORDER, photo by X-1

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