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連覇を逃したゴールボール女子日本代表。リオから学ぶ、V奪還へのヒント

ゴールボール女子日本代表は、4年前のロンドンパラリンピックで鉄壁の守備とチームワークを武器に歓喜の金メダルに輝いた。だが、その後、世界各国が力をつけるなか、日本は苦戦を強いられ、連覇を狙うはずのリオ大会の出場権も、ラストチャンスでようやく手にした。そして、迎えたリオ大会では、予選3位で決勝トーナメントに進んだが、準々決勝で涙をのみ、結果は5位に。なぜ、日本は勝てなかったのか? この結果から何を学び、次につなげるべきか? ゴールボール女子日本チームの指揮を執った市川喬一氏にリオでの戦いぶりを振り返ってもらった。

出遅れた“リオ本番”へのスタート

――2連覇を目指したリオパラリンピックでしたが、結果は5位。この結果をどのように受け止めていますか?

市川 率直なところ、日本にメダルを獲る力はあったと僕は思うので、悔しいです。敗因は主に2つあったと思います。1つは、僕自身が指揮をとった期間が短すぎたこと。ヘッドコーチ(HC)に就任したのが2015年1月で、実際に指導し始めたのは5月。その時点ではパラリンピックの出場権すら獲れておらず、まず出場権を獲る戦いからでした。11月にようやく獲れたので、そこからリオまでの8カ月で突貫工事を行ったという状況でした。

代表権を獲る戦いとリオ本番ではそれぞれ出場国が違いますから、2つの強化は別物です。対戦国ごとに戦術を立て、選手に高いレベルで浸透させるには最低でも2年は必要だと思います。今回は期間が短く、戦術を十分に浸透させられませんでした。

――反省点を挙げるとすると?

市川 4年前のロンドン大会でもアシスタントコーチを務めましたが、2015年にチームを引き継いだときに、「ロンドンとは違う。これはまずい」と感じました。いろいろ対策を講じましたが、残念ながら、リオ大会期間まで引きずりました。

――ロンドンのときと違ったこととは?

市川 ロンドンでの優勝以降、「連覇しなくては」とプレッシャーをかけられ、選手は精神的にも疲弊していました。そして、選手経験もある僕自身の指導方法も、最初は「気合だ」「根性だ」と体育会系だったところもあり、そこは反省する部分です。ゴールボールの理論を教える座学も合宿で取り入れたりしましたが、短期間では難しかった面があります。

4年前と比べてチーム内のコミュニケーションも不足していました。ロンドンはほぼ主力3人で戦っていましたが、今回は戦力的にも3人でなく、6人全員で戦う総力戦が必要で、チームとして変革の時でした。でも、リオに懸ける覚悟や決意の強さが選手6人それぞれでムラがあるなど、溝を生んでしまった点もありました。

――どんな対策をしましたか?

市川 HC 就任後すぐに、JSC(日本スポーツ振興センター)の心理サポートを依頼しました。集団心理学を専門とする臨床心理士の先生から、僕からや選手同士の声かけの方法などチーム作りについて指導していただきました。リオ期間中も1試合ごとにオンラインで選手は心理サポートを受けました。おかげで、ある程度チームとしてまとまって戦うことができたと思います。

ゴールボール日本代表

予選は2勝1敗1分け。決勝トーナメント初戦で中国に敗退

――そうした苦しいチーム事情のなか、リオでの戦いについて教えてください。まず、初戦を振り返ってどうでしたか?

市川 予選リーグでは初戦が最も重要で、我々もこのイスラエル戦にしっかりウエイトを置いて準備していました。だから、1対1で引き分けたのは「負けないこと」という最低限の目標は達成できました。ただ、「初戦が重要」と選手たちにプレッシャーをかけすぎたかなと。勝ち点3は十分に取れるチームだったので、もう少し楽な気持ちでやらせてあげればと、反省しています。

――第2戦は地元ブラジル戦でしたが、2対1で勝利。勝ち点3を手にしました。

市川 ブラジルには特徴的な失点パターンがあり、そこを突く戦略を立てていました。でも、イスラエル戦のできや選手の緊張具合を考慮して、精神的なストレスを少なくしようと考え、ブラジル用の戦術はやめ、日本の得意な戦法を指示しました。具体的には、相手のボールの出所を見つけやすい攻撃をすることによって、強みであるディフェンスを安定させるもので、戦術は見事にはまりました。

――3戦目のアメリカには3対5で敗れました。

市川 アメリカは世界選手権優勝の強豪国。予選では最も厳しい試合になると予想していました。十分な対策をしていましたが、メンバーの体調不良などもあり、若手を中心に起用したところ、少し負担だったようです。普段の力をもってすれば、十分に戦えたと思うのですが、前半で試合が壊れてしまった。試合後、選手からは、「怖かった」と言う声が聞こえました。僕の想定と選手の想定にずれがありました。

――4戦目のアルジェリアには7対1で勝利し、予選は2勝1敗1分け。グループ3位で準々決勝に進み、中国と対戦しました。

市川 アルジェリア戦は、アメリカ戦で力を発揮しきれなかった若手を再び起用しました。もう一度、気持ちを入れさせて、次につなげたかったので勝ててよかったです。

ただ、予選リーグは1位抜けを想定していたので、準々決勝で、一番やりにくい中国に当たったのは残念でした。中国とはこれまでさんざん戦ってきてお互いに知り尽くしています。結局、延長戦までもつれ、エキストラスロー合戦になりましたが、個人スキルでは肉体的にパワーやスピードで勝る中国選手が圧倒的に上。延長戦でなく、日本はチーム力で戦えるときに試合を終わらせなければいけなかったと悔やまれます。

――残念ながら、5対3で敗れました。

市川 勝てた試合を落としてしまったなと思います。正直に言えば、敗因は2つありました。1つは前半の早い段階で2得点し、選手の気持ちが極端に守備的になったこと。もう1つは後半の勝負どころで、選手交代のタイミングを僕が躊躇した点です。選手を信頼しきれず判断が遅れ、その後の失点につながりました。選手はよく戦ったと思いますが、僕と選手とのコミュニケーション不足も選手交代など戦術に影響することを学びました。この点は今後の指導に活かしたいと思います。

4年間かけてメダルに食い込めるチームに

――2020年は開催国として、出場権はすでに得ており、準備期間としては約4年間あります。

市川 リオでは、「こういう状況を招くとメダルが獲れない」ということを学びました。僕自身、コーチとして反省点もあるので再挑戦したい気持ちはありますが、今後、誰が指揮を執るかは未定です。誰がやるにしても、まず僕がしっかりバトンを引き継ぐことが大事だと思っています。

4年かけて強化すれば、僕はメダルに食い込む力はあると自信をもって言えます。大きな大会が終わり、主力選手の入れ替えはあるかもしれませんが、まずは、リオの結果や反省点を分析し、「チーム2020」としてリセットすることが大事です。もう一度チームを組み立て直し、選手一人ひとりに役割を明確に与え、選手が理解し実践することで、道は必ず開けると思います。

text by Kyoko Hoshino, photo by X-1

市川氏
帰国後、リオでの激闘を語る市川氏
photo by Kyoko Hoshino

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