パラサポ

リオパラ屈指のライバル対決。山本篤と大腿切断のジャンパーたち

「金メダルを目指してやってきた」と2位の山本

互いに認め、高め合う関係は、「ライバル」と呼ばれる。

リオパラリンピックも大詰めを迎えた9月17日、8選手が出場した男子走り幅跳びT42クラス(大腿切断など)で、世界3強が見ごたえあるライバル対決を繰り広げた。

ハイレベルなジャンプ合戦を制したのは、6m70の大会新をマークしたハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)。現世界記録保持者だ。日本期待の山本篤は自己ベストタイの6m62を跳んだものの、惜しくも2位に。3位はデンマークのダニエル・ワグナーがつづき、3強が予想通り、表彰台を占めた。

この3人は今年に入り、互いに自己記録を伸ばし、他の選手とは別次元で抜きつ抜かれつのつば競り合いを演じてきた。その締めくくりがリオの舞台だったのだ。

山本は2008年、北京パラリンピックに初出場し、走り幅跳びで銀メダルを獲得。日本の義足アスリートとして初のメダリストとなり注目される。つづくロンドン大会は5位に終わったものの、2013年の世界選手権で初優勝し、2015年の世界選手権で2連覇を達成する。リオイヤーの今年はさらに調子をあげ、5月の日本選手権で自己記録を20cmも伸ばす、6m56の大ジャンプをみせ、当時、ワグナーがもっていた世界記録を3cm更新。自身初の世界記録保持者となる。

山本のジャンプが呼び水となったのか、ライバルたちの調子も上昇気流に乗る。2週間後にはワグナーが6m70を、7月にはポポフが6m72を跳び、あいついで世界記録を塗り替える、三つ巴の混戦に突入する。その後、山本は6m62 まで、ポポフは6m77まで記録を伸ばし、1ヵ月後に迫ったリオ本番での“3強競演”に注目が集まった。

そして迎えたリオでの“3強競演”は大会閉幕を翌日に控えた土曜朝、快晴の空のもと、幅跳びピットを間近に見降ろすバックスタンドを埋めた大勢の観客に見守られ、行われた。1本目の試技で、全8選手中、3番目に登場したポポフがいきなり6m70の大跳躍でトップに立つ。彼はその後、6m54、6m61で記録を伸ばすことはできない。 

今季ランク2位で大会に臨んだワグナーは4番手で試技。1本目に6m36を跳び2位につけると、6m50、6m57と徐々に記録を伸ばし、ポポフに迫った。

6番手の山本は1本目から大きなジャンプを見せ、観客を沸かせたが、ファウル。2本目も惜しくも赤旗があがったが、ジャンプの質はよく、「今日はいけるぞ」と山本は自信を得ていたという。3本目は記録を残そうと助走距離を少し伸ばして安全策をとり、狙い通り6m47をマークして3位に躍り出る。

記録の低い順に試技順が変わった後半、3強のなかで最初に跳んだ山本の4本目。「攻めるしかない」と集中し、自ら求めた観客の手拍子に乗ってスピード感あふれる助走から思い切りよく空中に飛び出す。大歓声のなか表示された記録は7 月に出したばかりの自己記録と同じ6m62。ワグナーを抜いて2位に上がった。

5本目はちょっと力み、6m50。最終6本目は気持ちよく跳べたが、6m57で、ポポフを上回ることはできなかった。ワグナーの6本目も、3本目と同じ6m57にとどまり、最終試技者のポポフが6m33で締めくくってゲームオーバー。それぞれのメダリストは国旗を掲げ、喜びを表現。観客も大歓声で称えた。

表彰式を終え、報道陣の前に姿を現した山本は開口一番、「表彰台に立ってみて、『悔しい』のひとこと。金メダルを目指してやってきたので……。(優勝記録まで)わずか8cmだが、大きな差」と無念さをにじませた。

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「3人でハイレベルな戦いができたことは嬉しい」

大会前、優勝ラインを「6m70辺り」と予測していた山本は、そこに到達できなかった自分を、「実力不足だった」と振り返った。8年前の北京では嬉しかった銀メダルも、「今回は悔しさが強い」と話したが、「試合自体は楽しめたのでよかった」と笑顔を見せた。

3強が切磋琢磨し合い、素晴らしいライバル対決をこの試合で見せたからこその感想だろう。実際、山本は試合中にもポポフと、「すごく面白い試合だね」と話をしたという。さらに、自分が最終試技を終えたあと、ワグナーとポポフの6本目には、率先して手拍子を打って観客をのせ、盛り上げていたほどだ。

熱戦を終えて山本は、「3人でハイレベルな戦いができたことは嬉しい。二人がいるから、自分ももっと上を目指そうと思えるし、成長できる。若い選手も出てきたし、もっと強くなって、試技1本ごとに1位が入れ替わるようなハイレベルな戦いができれば、幅跳びはもっと楽しくなる」と声を弾ませた。

ワグナーにも声をかけると、「金メダルを目指していた。でも、銅メダルでも、僕は十分に満足だ。ポポフもヤマモトも偉大なアスリート。二人と一緒に戦え、いい試合ができたことを光栄に思う。2020年東京大会に向けて、またがんばりたい」と清々しい表情で話してくれた。

世界記録保持者らしく堂々とした戦いぶりで金メダルをつかんだポポフは、「ヤマモトを倒しての優勝」について感想を聞かれると、「『倒した』なんて思っていない」と即座に否定し、笑顔でこうつづけた。

「今年は1年を通して、ヤマモトとダニエルという素晴らしい3人で世界記録を更新しあえ、大きな成果を残せた。そして今日も、高いレベルで競いあえたことが、ただ嬉しい。たまたま今日は、僕がいちばん跳んだだけだ」

競争こそが、競技の質を高め、勝負を面白くする――そんなスポーツの醍醐味を、“3強”はリオでの一戦で存分に実感させてくれた。

残念ながら、ポポフはリオを最後にパラリンピックからの引退を示唆し、山本も東京大会出場については、「1年1年積み重ねて、つなげられれば」と語るのみで明言は避けた。だが、二人はともに、来年のロンドン世界選手権への出場は表明した。まずはロンドンで、3強の華麗なジャンプ合戦の再演を心待ちにしたい。

text by Kyoko Hoshino/NO BORDER, photo by X-1

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