2016年9月3日
オリンピックの熱狂の中で見た“パラリンピックへの助走”
開会式で拍手を浴びた車いすのアーチャー
日本ではメダルラッシュに沸き、ブラジルではサッカーの金メダル獲得に沸いたリオデジャネイロオリンピック。気候にも恵まれた熱狂の17日間には、パラリンピックに向けての“助走”を感じさせるシーンを見ることも少なくなかった。
8月6日の開会式で大観衆の目をひときわ引いたのは、イラン選手団の旗手として登場したアーチェリーのオリンピック&パラリンピック選手、ザハラ・ネマティだ。車いすに乗ってイラン国旗を高々と掲げる姿は笑顔に満ちあふれており、誇らしげでもあった。観衆は彼女の姿に気づくと、大きな拍手を送った。
現在31歳のネマティは12歳のときにテコンドーを始め、黒帯までいった実力者だ。2004年に交通事故に遭って脊椎を損傷したが、その後、車いすアーチェリーで才能を開花させた。2012年ロンドンパラリンピックでは、アーチェリーでイランの女子選手としてパラリンピックとオリンピックを通じて初の金メダルを獲得。昨年はオリンピックとパラリンピックの両方でリオへの切符を獲得し、今回は“ダブル参戦”で乗り込んできた。
「すべての障がいのある人たちに諦めないでほしいと伝えたい」と話していた通り、オリンピックではロシア選手との対戦で2-6と健闘。惜しくも敗退したが、「次はパラリンピックで」と燃えているはずだ。
卓球の福原・伊藤と対戦したポーランド選手
卓球女子団体1回戦で日本のダブルスコンビ、福原愛・伊藤美誠組と対戦したことで、その存在を広く知られるようになったのは、卓球女子のナタリア・パルティカ(ポーランド)だ。試合では「憧れている」という福原と伊藤に真っ向勝負を挑み、1ゲームを奪う善戦。日頃の鍛錬の成果を存分に発揮した。右前腕のない彼女は、11歳でまずは2000年シドニーパラリンピックに初出場。アテネ、北京、ロンドンのパラリンピックを制しており、ロンドンとリオではオリンピックにも出場した。リオのパラリンピックでは4連覇を狙う。
卓球女子ではオーストラリアのメリッサ・タッパーもオリンピックとパラリンピックの両方に出場。オリンピックでは地元ブラジル人選手に敗れており、こちらもパラリンピックで完全燃焼を目指す。オリンピックの終盤に近づいたころには、オリンピックパーク内の巨大土産ショップで、オリンピックのマスコット「ヴィニシウス」と同様に、パラリンピックのマスコット「トム」のぬいぐるみを求める人々が増えているようだった。日本人的には手足のひょろ長い「ヴィニシウス」よりも、丸みがある「トム」の方が可愛らしく映るという声もちらほらと耳にした。
選手達たちの距離が縮まりつつあるオリンピックとパラリンピック
また、オリンピックの競技を終えた日本代表選手団の中には、競泳で金銀銅メダルをそれぞれ1つずつ獲得した萩野公介のように、「オリンピックの良い流れをパラリンピックにもつなげてください」とエールを送る選手が出てくるなど、以前と比べてもオリンピアンたちの間でもパラを楽しみにしている選手が増えている様子が伝わってきた。
日本ではラグビーとウィルチェアーラグビー、サッカーとブラインドサッカーなどで選手間の交流が広がりつつある。アーチェリーや卓球に象徴されるように、選手たちの距離も少しずつ近づきつつあるオリンピックとパラリンピック。
ブラジルではスター選手であるネイマールの活躍でサッカーが金メダルを獲ったことにより、パラリンピックへの関心が一層高まり、ショッピングモールのチケット売り場には長蛇の列ができた。
ネマティやパルティカも出場するリオパラリンピックは、7日に開会式を迎える。多くの観衆の心を揺さぶる真剣勝負が再び火ぶたを切る。
text by Yumiko Yanai , photo by REUTER/AFLO