2016年9月12日
国枝が初戦ストレート勝ち!「挑戦者」として臨むパラリンピック
ストレート勝利も、自己採点は「30~40点」
リオパラリンピックのオリンピックテニスセンターで行われている車いすテニス。現地時間の11日、男子シングルが行われ、2回戦から登場の第6シードの国枝慎吾(ユニクロ)がダニエル・ロドリゲス(ブラジル)を6-2、6-1のストレートで破り、3回戦に進出した。
午前11時の試合開始時にはぐんぐんと気温が上がり、センターコートには強い日差しが照りつけた。さらにコート上を舞う風が、粘り気がありボールが遅く、重くなるという独特のサーフェスの攻略をより難しいものにした。加えて、対戦相手は地元のロドリゲスである。彼がポイントを奪うたび会場は「ブラジール! ブラジール!」の大合唱に包まれた。だが、パラリンピックは4度目となる国枝は「ああいう場でやれたことを経験にしていきたいと思います」と、冷静だった。
ロドリゲスは世界ランク18位の29歳。昨年2度対戦し、いずれも国枝が勝利している。この試合でもストレートで退けたが、試合内容には満足していない。第1セットはコースが単調になり、甘く入ったところを自分のお株を奪われるようなバックハンドのダウンザラインを何度か決められた。「ボールを深く、広角にコントロールしないと相手を押し出せない。ギアをもう2~3段上げないと、この先は厳しくなる」と反省し、気を引き締める。
テニス人生最大の試練を乗り越え、3連覇を目指す
ちょうど昨年の今頃、グランドスラムの全米オープンで優勝した。シーズンを通して調子が良く、この全米の勝利で自身5度目となる年間グランドスラムを達成。「自分のベストのゲームがどんどん更新されていくという成長段階に、また入り始めたなと感じる」と話し、歴史の新たなページにその名前を刻んだ。だが、その後、右ひじに若干の違和感があり、翌年の全豪オープンでは「ごまかしながらプレーしていた」。その程度は軽かったことからさらに様子を見ていたが、リオパラリンピックでシングルス3連覇する可能性をより高めるために、4月に手術に踏み切った。ところが、痛みが再発したことで事態が大きく変わっていく。7月のウィンブルドンを欠場した時期は「とてもテニスができる状態ではなかった」と、のちに打ち明けている。
国内で治療とフィジカルの強化に努めたが、調子に波があったことが辛かった。何より、一度手術をして、不安を取り除いて「いけると思った」後の痛みだっただけに、精神的に落ち込んだ。「パラリンピックにもしかしたら出られないかもしれないという思いが、頭をよぎるほどでした」。約1か月間、テニスを離れたこの時期を、国枝は「どん底だった」と表現する。復活の兆しが見え始めたのは、パラリンピックまであと1か月と迫った8月を過ぎた頃。ようやく強化を中心とした練習に取り組めるようになり、リオ辞退という最悪のシナリオは回避された。
世界ランキングは1位から7位に急降下。実際に相手と対戦するうえでは、ランキングの数字は参考程度に過ぎないが、国枝がリハビリ合宿に取り組む間、ライバルたちはリオで頂点に立つために、ハードなトレーニングを積み、積極的に試合にエントリーして腕を磨いている。そうしたキレた状態でリオに乗り込んできたライバルたちと、実戦不足の国枝はどう対峙するのか。
そのヒントは、今日の国枝の試合後のコメントに見ることができる。「(先に相手に仕掛けられる前に)リスクをかける勇気を持つことかなと思います。これは心の問題。一試合、一試合やっていけば、強くなっていく部分もあるし、そこに期待したいなと思います」
今大会は「チャレンジャー」として臨んでいる国枝。元世界王者であり、ディフェンディングチャンピオンという“最強の挑戦者”が、闘志をみなぎらせている。
text by Miharu Araki/MA SPORTS, photo by X-1