パラサポ

車いすテニス男子はさらなる群雄割拠の時代へ

リオで躍進光ったイギリス選手

リオパラリンピックの車いすテニスは、「世代交代」が声高に叫ばれるなか、終了した。

とくに男子は、歴史的転換期を感じさせる場面が多々あった。男子シングルスを制したのは、第3シードで24歳のゴードン・リード(イギリス)。優勝候補筆頭の第1シードのステファン・ウデ(フランス)を準決勝で破って決勝に進出。その決勝では、同郷のアルフィー・ヒューイットに6-2、6-1で完勝し、金メダルを獲得した。左利き特有のスライスサーブ、力強いストロークは鮮烈な印象を残した。

リードはロンドン大会ではベスト8。グランドスラムでは今年の全豪で初タイトルを手にし、今年から開催されたウィンブルドンのシングルスも制するなど、いまもっとも波に乗っている選手のひとりだ。ただ、車いすテニス界では長年、ウデと国枝慎吾(ユニクロ)という不動のツートップがいた。そのため、パラリンピックでは本命というより「若手の急先鋒」として注目されるポジションだったが、最高峰の大会で優勝したことで一気に世代交代の代名詞となった。その後、世界ランキング1位(9月20日現在)に躍り出ている。

銀メダルを獲得したヒューイットはまだ18歳。これまでもジュニアの世界ランク1位に登りつめるなど有望選手であったが、初出場のパラリンピックでファイナルに残ったのはいい意味で衝撃だった。準決勝では、国枝を準々決勝で破って勝ち上がった第2シードのヨアキム・ジェラード(ベルギー)を7-5、6-3で破った。ジェラードはこれまで6戦して一度も勝利したことがない相手。大舞台で貴重な一勝をマークする勝負強さを発揮した。ちなみに、ヒューイットは5月の国別選手権(東京)で国枝と対戦している。その時の印象ではまだパワーに頼ったテニスで成長途中という印象であったが、この数ヵ月で見違えるほどしっかりした戦術のもと展開するテニスにスケールアップしていた。

車いすテニスのイギリス勢

また、リードとヒューイットはペアを組み、ダブルスでも決勝に進出。第1シードのウデ/ニコラス・ペイファー(フランス)組とフルセットの激闘を演じた。粘り強いプレーで何度も相手を追い込むが、最後はウデ・ペイファー組の試合巧者らしい冷静な試合運びの前に力尽きた。

とはいえ、リードとヒューイットはシングルスとダブルスでそれぞれ素晴らしい色のメダルにふさわしい活躍をしてみせた。イギリスは、前回のロンドン大会を目標に、長い年月をかけて選手の発掘・普及活動、そして強化を行ってきた。「その成果が今大会に表れた」と、日本の中澤吉裕監督は話す。また、日本代表選手団の大槻洋也団長は、今大会イギリスが他競技でも躍進をしたことを受け、「“UKスポーツ”として強化をしてきた長期的な施策がメダルにつながっている。その姿勢を日本も参考にしたい」と、4年後の東京、そしてそれ以降に向けた強化のモデルにしたい考えを示している。

3連覇逃した国枝は、ダブルスで値千金の銅メダル!

日本は国枝のほかに、眞田卓(フリー)、三木拓也(トヨタ自動車)、齋田悟司(シグマクシス)が出場した。シングルスでは、齋田が2回戦、眞田が3回戦、国枝と三木が準々決勝で敗退する厳しい結果となった。ただ、三木は3回戦で元世界ランキング1位のマイケル・シェファーズ(オランダ)にフルセットの末の大逆転勝利をおさめた。これまで一度も勝ったことがない相手に、パラリンピックで土をつけたことに「自信になる」と話し、前を向いた。

国枝は、右ひじを4月に手術した影響で、ウィンブルドンなどいくつか予定していた大会をキャンセルするなど厳しいシーズンを過ごした。国内での調整と強化に努め、パラリンピック本番にはぎりぎり間に合わせたが、試合勘が戻らなかったことが響いて苦戦。これまでの戦績からいって、本来の国枝にとっては勝ち上がりやすいドローだと思われたが、準々決勝で強打のジェラードに屈し、パラリンピック3連覇の夢は断たれてしまった。苦境に立たされながらも、「金メダルを獲る可能性を信じてプレーした」だけに、試合後は悲痛な表情を見せた。

気持ちを切り替え臨んだ、齋田と組んだダブルスでは、3位決定戦で三木・眞田組と対戦。相手が持ち味を活かした強打で押してくるのに対し、国枝と齋田はロブを上げ、確実につなぐテニスを選択した。本来は国枝と齋田も攻撃的なテニスが信条だが、ベテランペアは徹底して「勝ち」にこだわるプレーを貫き、見事に銅メダルを獲得。涙のフィニッシュとなった。

ダブルスの銅メダルは「金メダルと同じくらい嬉しい」と国枝。「シングルスで敗れたときは休みたいと思ったが、今はいち早く日常(ツアー)に戻り、グランドスラムで優勝したいと思えるようになった。この銅メダルで報われた」と話し、次につながる経験になったことを強調した。

競技力が年々向上していることが証明された今回のリオパラリンピック。テニスは個人競技だが、ライバルたちはそれぞれ国をあげた強化を重ねている。4年後の東京では、さらにハイレベルな戦いが繰り広げられることは必至だ。日本は、ダブルスでは2組がベスト4に残る意地を見せたが、シングルスでは期待されたメダルに手に届かなかった。地元・東京での金メダル獲得に向け、チームとしてどう全体的に底上げをしていくかが大きな課題のひとつとなる。この4年間の本気の取り組みが試される。

日本代表の三木
三木拓也は、シングルス3回戦で元世界一の強者に初勝利した

text by Miharu Araki/MA SPORTS, photo by X-1

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