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力出し切ったレースに“納得感”も、1秒差で逃した金メダルは「悔しい」

力出し切ったレースに“納得感”も、1秒差で逃した金メダルは「悔しい」

リオパラリンピック最終日の9月18日、陸上競技を締めくくる種目は女子車いす(T53/54)マラソン。エントリーした14選手のひとり、土田和歌子は、悲願の金メダルに向ってスタートを切った。42.195kmを全力で駆け抜けた結果は1時間38分45秒の4位。金メダルとの差はわずかに1秒だった。

舞台は観光地コパカバーナビーチ沿いを5周回するコース。ほぼフラットだが、コーナーが多いテクニカルなコースで、中盤以降は8人の先頭集団が互いにけん制し合いながらレースが進んだ。誰もが虎視眈々と集団の中の位置取りや仕掛けどころを探り合うなか、ベテラン土田も冷静に状況を判断。「最後は自分で」の思いが強く、ラストスパートのタイミングを見計らっていた。

残り2キロを過ぎ、土田はここぞとばかりに仕掛けたが、集団に4人もいたアメリカ勢のチーム戦に阻まれ、抜け出すことはできず、勝負はラストスパートに持ち越された。残りの直線で3番手につけた土田はペースアップしたが、トップには届きそうもなく、「ここでゴールか」と思いきや、左側から猛然とダッシュしてくる選手の姿が目に入る。ノーマークだった中国の鄒麗紅だった。勢いのまま先頭に躍り出るとそのままフィニッシュ。アメリカのタチアナ・マクファデンとアマンダ・マクグローリーにつづき、土田は4位に終わった。

「金メダルを目指していたので、非常に悔しい思いはあります。でも、自分の力をすべて出し切った42.195kmだったので、悔いはありません」

41歳で迎えた7回目のパラリンピック

アイススレッジスピードレースで出場した冬季2大会を合わせ、土田にとってリオは7回目のパラリンピックだった。5000mでは2004年アテネ大会で金メダルを獲得したが、マラソンでは2000年シドニーが銅、アテネが銀。金メダルを獲りにいった2008年北京では5000mで他選手のクラッシュに巻き込まれ負傷して棄権。マラソンはスタートラインにさえ立てなかった。満を持し、8年ぶりに挑んだ2012年ロンドンのマラソンは転倒がひびき、無念の5位に終わる。

“不完全燃焼感”でいっぱいだったロンドンのゴールから4年。練習内容やフォームを見直すことはもちろん、競技用車いす、レーサーもフルカーボン製に乗り換えた。大勢のサポートを得ながら2年かけて自分仕様に調整し、マシンとの一体感も高めた。力が効率よくホイールに伝わり、大きな推進力を生みだす漕ぎ方も研究し、繰り返しの練習で技を磨いた。

大会前には、「できること、やるべきことはすべてやってきた」と自信を示した。さらに、体力と集中力を温存し、不測のトラブルも最小限にすべく、出場種目もマラソン1本に絞って臨んだ大一番で、まさかのメダル圏外。

「世界の選手と互角に戦え、力は出し切ったいいレースだった」と振り返った土田に、常々口にしていた「納得感のあるレース」がリオでできたかどうか尋ねてみた。すると、一瞬間をおき、「そうですね。メダルは獲れなかったですけど……。納得は、できました」と言い切った表情は清々しかった。

そんな土田が大きく表情を崩したのは、自身が逃がしたことで、日本の金メダルが今大会ゼロに終わったことを改めて指摘されたときだ。ひときわ大きな声を上げ、残念がった。「ね~、そうなんですよ。私、獲りたかったんですけど~」

無念さはこの日、多くの人が共有したはずだ。レース中、周回でゴール付近に戻ってくるたびに、あちこちから、「ワコさーん」「ワコちゃーん」というエールが大きく響いた。「ワコ」は、和歌子(わかこ)の名に由来する土田の愛称。気さくな人柄を慕い、多くの人が親しみを込めてその愛称で呼ぶ。炎天下のコパカバーナにも陸上チームの後輩たちや所属先関係者など大勢のワコファンが詰めかけ、大接戦となったフィニッシュ直前では悲鳴にも似た「ワココール」がこだましていた。

今後の競技生活について聞かれた土田は、「もう一回整理して、(今日)ゴールした時の気持ちと合わせて考えたい」と話すにとどめたが、世界の情勢について意見を求められると、「競技レベルがすごく上がっている。トラックもそうだが、このロードレースでも世界記録(1時間38分07秒)に迫るパラリンピック記録(1時間38分44秒)が出た。これから先の4年も高いものが望めると思う。そんななかで日本がどう強化していくかがすごく大事。東京で金メダルを獲るために、必要なことがあると思う」と話した。

実際、今回優勝した鄒はトラック4種目に出場し、400mで銅、4x400mリレーで中国の金獲得に貢献した32歳。また、2位のマクファデンはトラックでも6種目に出場し、金4個、銀1個を獲得。まだ27歳にしてアメリカのエースだ。アメリカは他に4選手がマラソンに出場するなど層の厚さも誇る。

今回もそうした強者たちとつば競り合いを演じた41歳の土田が今後の競技生活について、どんな結論を下すかはまだ分からない。だが、20年以上もの競技生活で常に第一線で活躍してきた実績や、多くの人が慕い、リスペクトする土田の競技への姿勢や経験は、日本にとって大きな力であり、“必要なこと”であることは間違いない。

4年前のロンドン大会とは顔ぶれが全く変わってしまったリオの表彰台。マクファデンや鄒などトラックの短距離種目にも強い選手の台頭もあり、女子の車いすマラソン界は今後ますますレベルアップし、高速化も予想される。4年後の東京では、いったい誰が、どんなレースを展開するのだろうか。楽しみは尽きない。

text by Kyoko Hoshino/NO BORDER, photo by X-1

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